元素番号22 Ti チタン

XRFを説明する為に画像やチャートを見せるなら、相当なページ数が必要です。本来は、いろはから説明をしたいのですが、今回はそこは省いて、現時点でハッキリ分かっていて、将来も否定されない結論から書いていきましょう。丹下氏の郵趣研究99-100号の記事を後追いで検証することになるのですが、彼は一度だけの調査で貴重な問題提起をしてくれています。機械が私の手元に来て2カ月です。時間の制限もなく、慎重に試料を調べているのですが、見事なまでに彼の推測は当たっています。ピンポイントでターゲットを絞りましょう。試料の出所は、京都のMが作った珍品類、見事な出来栄えのカバーです。名古屋のMSA・ヤフーのtomopu・・・、日本フィラテリックセンター、Mからプライベートで入手した某業者から流れた物で、古くは30年ぐらい前から、今年の1月の日フィラへの戦後カバーの出品物と続きます。完全に一つのグループだと見ています。かつてから、余りにも多数の珍品・希品が一人の人物の手から解き放たれるのに違和感を感じた人は、私以外にも数多くいたはずです。でも、それは疑いと推測に過ぎず、事実の証明は不可能でした。彼の扱った珍品でも、全てが偽物でないことを私も知っていたのです。親しく付き合っている、それなりの知識のある知人とよく話をしていました。「Mが死んだ後で良い、どのカバーが本物で、どれが駄目かを書き遺してくれてないかな」。

それが現実になったのです。Mは健在で、今日も懲りずにカバーを作っていたとしても、です。故丹下氏の記事の2つの元素、Ti=チタンと、Hg=水銀が見事に真実を語っています。①のカバーは、問題のない真正カバーです。aは東京郵便役所の干支印、bは朱筆書き、cdは角検印、eは朱色の四日市の角印の、それぞれの元素分析結果です。残念ながら、軽い元素、6番のC=炭素、7番のN=窒素等は読めません。これは全ての試料で読めないので、読める元素での検証になるのです。ポイントをかいつまんで言えば、照射範囲=コリメーターは4ミリの円、厚みは上から50µを分析しています。K=カリウム、Ca=カルシウムは印刷用紙の属します。肝心の真正印の黒印には、V・Fe・Nb・Sb等が検出出来るです。Ti=チタンは全く出て来ません。朱印と朱消しには、Hgが必ず入っています。偽物にはそれが有りません。年代を区切って明治初期~昭和30年頃までの50通、消印数では200~300個を調べましたが、Tiに関しては、検出できたものは皆無でした。Hgは、僅かな例外も有るのですが、郵便局の明治期の朱色のそれからは100%検出できています。

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②は、協力者のご厚意でお借りした、Mの2年ほど前の製品です。出品物として来たのですが、ストップを掛けました。余りにもMの臭いがしたのです。aは切手上の消印、bは封筒上の抹消印、cは東京郵便役所の干支印です。何れも見事にTi=チタンが検出できました。ちなみに仕切印と墨筆にはTiは出てきていません。本物のスタンプレスカバーに細工したか、消印と違う作りかのどちらかです。①と②の2点での比較ならば、データとすれば不十分です。でも、竜から関東神宮、創始75年までの、Mが出所のカバーを、3人の有力なコレクターに声を掛けて、合わせて10点、消印数で35個検証して、100%の確率でTiが出ることが確認できています。具体的なマテリアルを示すことの了承は貰ってないのですが、何れも元の出所がMであることの確認はとっています。チャートとしては、同じ性質の物なので、冗漫になるだけなので割愛しています。これだけの標本数が有れば、たまたまとか、例外でなく、Mが作ったカバーの黒印にはTiが入っていて、その対極の真正の黒印にはTiは含まれていないと結論付けて良いと思います。Hgに関しては、データ数が20~30通と少ないし、例外を理論で消さないといけないので、朱色にHgが含まれて無いカバーでも、まだ強い疑いを禁じ得ないという表現に留めます。最後の単片③は、洋紙2銭ソの不統一印、かつてMSAの表紙を飾った物ですが、Mの出品と思われ、Tiが入っていることから判断して、偽印と思われます。

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まだまだ、精査が必要ですが、Mが出所と思しきカバー、不本意でしょうが、お手元にあるならば、是非分析させていただきたいと思います。分析結果でTiが入っているか否かを調べてみませんか。送料さえご負担いただければ費用は一切無料です。また、弊社のデータベースには残しますが、ご意志に反してデータを公開いたしません。機械は動き出したばかりであり、データの集積は極めて不十分です。現時点で出来るのは、調べたい試料と、同じような性質の、明らかな真正品を同じタイミングで、並べて比較したいのです。TiやHg以外にも、キーになる元素が出てくるかも知れません。この条件がクリアできるのなら、Mのカバーでなく、他の物でも機械で検査したいと思います。取りあえずは、結論を出すよりも、誤差の範囲を広く見て、判断基準の一つになれば良いと思います。特に、鑑定委員会が望まれるなら、全て無料で協力いたします。照射は50秒で完全に非破壊、データ出力に1件5分+、カバーで5か所見るならば30分ぐらいで作業できますから、興味ある方は是非お問い合わせください。もう30年は経ったと思います。「全日本切手交換会」「MSA」の表紙を飾った極美の珍消印、機械の目で見てみませんか。疑念が消えて、大手を振ってお天道様の元を歩けるものもあるはずです。