盲人用点字

今回のセールの前宣伝を致します。良い物が目白押しなので、幾らでも筆が進みます。オークショニアが意図的に拘ったテーマが二つ有るのです。盲人用点字と産業時代の急速便です。空前絶後の完成度が高いコレクションです。贅沢な仕事が出来ました。前所有者お二人に感謝です。最後のパートのLot1965~1980が盲人用点字です。私はオークションの記事に、唯一とか現存何点という定量の表現は使いません。クラシックの切手その物ならば兎も角、モダンの物は現存数など判る訳は無いし、それを書いても反感を招いて、ビッドの値段にはむしろマイナスになると考えているのです。書かないのは無知ゆえに知らなからでなく、無責任な謳い文句を使いたくないというポリシーだからです。著作物や切手展のコレクションにそれを書くのは構いません。間違えればご本人が恥をかくだけなので、勝手にやれば良いのです。でも、少なくとも私はそれをスタディーだとは評価を致しません。その人が書いたとしてもそれを上廻るマテリアルを見聞きした経験がかなりの確率で有るです。それに現存数が2でも3でも同じだと思うのです。定量表現の数字が少ないから、希少で有り、価値が高く、流通の価格が上がるとは考えていないのです。郵趣品の価値はもっと別のファクターで決まります。

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ラストロットの乃木2銭貼盲人用点字アメリカ宛ですが、よくぞこんな物が有ったと思います。最初は印刷物の不足便だと思ったのです。何のメモも付いていませんでした。盲人用の確信を得た後も手当たり次第に調べました。きっちりした文献には出ていないと思ったのですが、さりげない発表を見つけました。2015年発行の鳴美「昭和切手専門カタログ」の82ページです。図版だけの地味な扱いで、殆どの人が見落とすと思います。このカバーは、私の知る限り売買の記録は無く、切手展への展示や文献上での紹介もなされていないと思います。中身に点字文が入っているので物に間違いは無いのですが、郵便物上に盲人用点字の記載がない外信便を、よくぞ郵便局も正しく取り扱った物だと思います。外信便の点字は、全ての時代を通して、恐らくはオークションに初登場でしょう。しかも「乃木2銭」の単貼適正使用です。ラストロットなので盛り上がって欲しいものです。

乃木の点字は、外信便なのに和文消、野暮な人はそれを貶すかも知れません。無理やりに買わない理由を探すのです。今回の一連の点字は、お金以上に時間がかかっているコレクションです。料金と日付けを吟味して、適正期間の単貼に拘っていることが判ります。盲人用には珍しい程に状態も良いし、消印も読めるのです。ここらは私が拘って、まだまだ複数あるラインアップから本当に良い物から順番にチョイスして並べたからなのですが。全ての要素を精査して、買わない理由が見つからない物が有りました。Lot1970 3昭3銭貼幣原喜重郎宛中身入り、櫛型鬼石21.3.5 極美です。料金も日付もOKです。中身は戦争で視力を喪った傷痍軍人さんの総理大臣あての嘆願書でしょうか。中身を読み下したらリーフの説明に使えます。ここらの日付なら2昭3銭か1銭3枚貼が当たり前だと思います。画に描いたような珍品ですが、物には問題は無いでしょう。残念ですが、点字便専門のコレクターは今は頭には浮かびません。このエンタを熱望して、絶対に落とすから早く出せと何度も急かされた横矢仁先生も間に合わずに逝きました。そして同じような物が弊社のセールに出たことが有るはずです。60何万かで落ちたのかな。落とした人は今回はビッドしないでしょう。さあ、ガチガチで買ってくれる人は居ないのですが、欲しい方は沢山いると思います。珍品コレクターが手ぐすねを引いてお待ちでしょう。絶対に、【買わない理由が見つからない】素敵なカバーなのですから。

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今回の一連の点字便の前所有者さん、凄い物をお持ちでしょた。98冊の濃密なマテリアルを一瞥して、ビックリ仰天したのです。有るはずがない使用例が有りました。適正使用の1枚貼・変な理屈を捏ねない、真っ正直な使用例としてですが・・竜48文から現行の84円までを並べて見ての最珍品だと思うのです。透かし無80銭の盲人用点字です。大河原欽吾宛、怪しい物では有りません。出品する場合は、最低値は100万でしょうが、世が世なら、尼崎のM木先生と神田神保町・荒魂書店のI山さんがガチンコで競れば、1000万になったかも。勿論状態が完全ならばなのですが。ご覧の通りの大傷です。見るからに買わない理由が有るのです。でもご所望の方がいたのです。10万位なら喜んで買ってくれたでしょう。競争展には出せませんが、別の使い道が有るのです。数回前のオークションに出しました。迷うことなく私が付けた最低値は1000円です。1万円位で何人かがビッドすると思ったのですが、アタックはお一人だけ、取りあえずのメールビッドで10何万・・、競る相手がいれば落し切るまでどこまでもやるでしょう。買わない理由は有っても、買う理由も有るアイテムだからです。拍子抜けでした。発句の1000円でハンマーです。これが健全なオークションの姿です。でも、今回の盲人用点字の並びなら、延々と何処までも競ってくれて良いのです。物が良いので、オークショニアはストップを掛けることは致しません。

今回のJAPEXセールですが、当日の会場の大きいイベントが皆キャンセルになりました。だから、5階のフロアの半分を弊社が貸し切りで使えます。収容人数は300人以上のキャパで、ゆったりと机をセットできるでしょう。会場の使用時間は5時までですが、蛍の光が流れる中でラストのパートを競りましょう。皆さんが帰ってしまっての寂しいセールにならないことを望みます。