懸案解決 渡辺版吉野熊野FDC

昨年5月20日より9月9日に書きました渡辺版の川瀬巴水カシェの吉野熊野FDCに酷似したタイプ違いのカバーの素性が知れました。お二人から仮説での情報を頂いておりましたので、ここで纏めてみたいと思います。山崎好是氏からは、別紙のメールを貰いました。20180808_001

趣旨は、前田晃氏が制作数以上の注文が来たため、悪意でなく、オフセット版を作ったと読めるのです。渡辺版に関しては確かに切り抜りきカシェきのFDCは存在します。山崎氏の意見では、あたかも不足分を補うための切り抜きが存在する、つまり同じ種類のカバーに於いて、刷り込みと切り抜きが存在しているというご意見でしょうか。熊本展や赤十字募金が切り抜きカシェで有るのは確かです。でも、同時に刷り込みカシェは有るのでしょうか。

結論が意外と簡単に見つかりました。カバー研究会・宮崎清二氏著の「渡辺木版カバーリスト」に出ています。

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昭和23.11.20の農婦2円・このカバーからカッシェをカバーに刷り込むことが可能になった、という記載です。つまりそれ以前は。全部(孔版の数字1.5円と3.8円は除く)切り抜きカシェであり、以降は刷り込みカシェで有って、並立しているのではないという意味でしょう。この点からも、吉野熊野の前田晃氏による、補充作成説は否定されると思います。

より強力な情報を、今関顕之氏が見つけてくれました。国会図書館に通って、郵楽会時報・11巻第4号の記事をくれたのです。

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昭和24年7月28日発行なので、7月のトピックスは、吉野熊野のFDCに関する情報と見て良いでしょう。署名記事では無いのですが、内容から判断すれば、前田晃氏の筆によると思います。吉野熊野の酷似の偽カバーが、海外からもたらされていることを考えても、「抜け目のない切手商が・・作り始めた」物で、その昔に輸出された物の一部かなと思うのです。偽カバーの消印は、すべて真正です。白封筒のそれに、後年になって人気が出た、川瀬巴水のカシェに似せて、切り抜きカシェを後貼りしたという物ではないでしょう。同種の物は、吉野以外には発行日が接近した、24.5.5発行の、子供の日にのみ存在します。この紛い物は2回で終わったという事でしょう。自慢にはなりませんが集めてみるのも面白いと思います。

渡辺版の巴水と言えば、秋吉誠二郎氏が、立派な本を出されています。「版画家川瀬巴水と渡辺版初日カバー」です。古書のマーケットでも高く取引されるのですが、この本で気になっていたことが有りました。巴水の作品は全て網羅されていると聞いたのですが、2種が洩れて居るかも知れないのです。4回国体と長野平和博です。日本初日カバーしのび草から画像を載せて置きましょう。

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FDCの専門家と話をしても、この2種が巴水だろうという意見をよく聞きます。私もそうかな、と思っていたのです。前述の宮崎さんのカバーリストでは、長野平和博は巴水、4国水泳は大塚慶治になっています。

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渡辺版のカシェ作家が誰であるかの確定証拠は、カバーに同封されたガリ刷りの解説書です。全てのカバーに入ってはいないので、その法則性は不明です。気になっていたので、折に触れて調べていたら、4国水泳は見つかりました。秋吉さんも宮崎さんも正しかったのです。大塚慶治で間違いありません。でも、長野平和博はどうでしょうか、秋吉さんは、巴水ではない、宮崎さんは巴水だと書いているのです。ガリ刷りの解説書を一生懸命集めているのが、貴重な資料を見つけてくれた、今関さんなので、既に手に入れられているかも知れません。今度会ったら聞いて見たいと思います。