郵趣研究124号

竜1銭コンビネーションカバーにつき、早く書いて宣伝しろとの某所からご連絡を頂きました。6月15日発行の郵趣研究124号に、松本純一氏が3ページの記事を書かれるとのことです。123号での出現の経緯のマテリアルの、デールとして成功裏に完了した・・との論文になるはずです。因みに、私はその記事をヒントと言えども一切目にしておりません。『正解』が遠からず出ることが分かっていて、「推論」を書くのは分が悪いのですが、その前提でこそ書けるネタが有るのです。20~30年前からのトピックを幾つか入れてお話を作ってみましょうか。

今回のセールの結果は、Webbに出ています。竜1銭のコンビカバーは€42000、デグロンは€6200~8200、手数料を入れて€@1.00=160円ぐらいです。随分と良い値段だと思います。セールは「フロア」で行われたのですが、本来今のフランスでは不可能な筈なのです。システムが変わったとは聞いていません。ここで思い出すのは、10数年前に、在仏の中国人から貰った電話です。三五六の仏船内印消、実逓がパリのオークションに出ている、幾らで買えば良いのか教えてくれでした。何処のメールオークション?と聞いたら、弁護士事務所が主催のフロアセール、貴方(私のこと)の知らないとこ、と言われました。相手がKong Wen-Sunなのでごちゃごちゃは一切不要。電話だけで全てがけりがつく、要は値段を決めさえすれば良いのです。結局200~250万なら買うよのオファーをして、送られて来て、プラーベートで納めて、それでビジネスは完了です。彼がいくらで買ったかは聞いてません。セールのやり方は、今回のFerriも同じような形式でのフロアセールと思えるのです。でも、Kongさんは最早鬼籍に入っているので今回は連絡を取ってません。

竜のカバー、邦貨では700万位になるのです。結果が出てのマテリアルの評価ではなく、問い合わせを貰った2人の国際展LGレベルのコレクターには、極めてネガティブなアドバイスをしたのです。多分2人共、ビッドはしていないと思います。松本さんのご判断は、竜切手を貼った唯一の外郵カバー、日本切手を貼った郵便物として、最初期の外郵便です。外見上の判断ではその通りだと思います。私に意見を求めた2人も同じ視点でのそれでした。でも、一流の伝統郵趣コレクターが郵便史的な文脈でコレクションに入れる場合は、十分条件が満たされて無いと思うのです。竜1銭の位置づけとしては、100人中98人は同じ解釈をすると思います。真正品の前提で考えて、東京~在日横浜仏局への国内料金=1銭、明治5年6月末の使用例、青の角検ですし、何の矛盾も有りません。但し、日本で郵便制度が出来ての2年目、このカバーを日本の郵便制度でフランス宛の料金で分析すれば、正規の手続きとすれば、駅逓寮あて差出手続き願い、2重封筒での仏宛なら32銭料金になるはずです。後のデグロンカバーは、日本国内料金+在日仏局のフランス宛料金を1通で片づけたのです。日本郵便扱いの煩雑さを省き、経済的な面でも在日仏軍大尉を含む陸軍顧問団への便宜供与がなされた実例です。日本郵便の立場では、有り得ないシステムでしょうが、力関係から受け入れざるを得ず、また実例が100点以上存在すれば、もはやその存在を丸ごと否定すれば笑われます。だから今回のカバーは、「推測」としては、デグロンカバーのフォアランナーの位置づけになると思います。但し、この条件でマテリアルを見ても、客観的に証明できる要素が決定的に欠けています。東京郵便役所の干支印が無く、それ以上に、東京郵便役所からフランス横浜局宛に送られたエビデンスが無いのです。封筒に書き込みが有るか、付箋(その跡)も有りません。このマテリアルが単独で、E-Bayに出たとしての評価がどうなるかを想像してほしいのです。変造品の証拠も有りません。竜1銭が貼られる、有り得る解釈も成り立ちます。でも、パリで他のコレスポンデンスと一緒に見つかったという「事実」がこのカバーが「真正」であるという「推測」に大きな影響を与えています。

松本さんは、「善意のムッシュー」なので、123号の文面から判断して、情報提供者(もしかすれば発見者)を毛ほども疑われて無いと思います。盲目的と言えるほどに信用されています。誤解を恐れずに書くならば、Andre Rolandの名前には強烈なインパクトが有るのです。特に関西のベテラン収集家は、彼に嫌悪感を示します。40年ぐらい前でしょうか、フランス宛の旧小判高額や桜切手を貼ったカバーが、この人物により日本に持ち込まれました。あくまで、又聞きの噂なのですが、少なからず変造品が含まれていたのです。パリの着印の青印・朱印が、切手にタイしているのですが、それが真正で無いのではという話になっています。今も2次流通~3次流通でその流れのカバーが出てくるのですが、マーケットではポジティブには受け入れられません。私自身は、彼に悪い印象は持っていません。付き合いも非常に薄いのです。1980年頃のパリ国際切手展だっと思います。フルウチ・キタゾノ・ヤマザキ・ゴトウさんだったかな、向うで会った日本のディーラーと食事に行きました。パリなので話題の中心は、何といっても、ローランの悪口です。皆で大声で、しゃべっていたら、にっこり笑って近づいてくる2人連れ、アンドレ・ローランその人です。お連れは、もしかして、江戸京子(バイオリニストで、小澤征爾の最初の妻)と思ったら、はるかにお若い美人の日本人、切手の話でなく、芸術論で花を咲かせました。その2年後ぐらいかな、突然ローランから、自宅に電話を貰ったのです。パリのデマレ(Demarest)のロット、談合しようというオファーでした。誰に私の電話番号を聞いたか知りません。でも、物にはきっちり、心当たりが有ったのです。500文2版の赤坂検査済、風船12銭のKB2遠州二俣、他にも中々のコレクションが、パリのメールオークションに出ていたのです。この時点で、日本人で強いビッドが出来るのは私だけ、と読んだのでしょう。こちらの返事は、2人だけでは意味がない。Kongとフランス人のHN、パスカルをどうするのと聞きました。一切をローランがアレンジして、ロットは私の手元に来ています。ディールをして何の問題も無かったのです。でも、パリのオークションでのビジネスはこの1回限りです。その後のお付き合いも有りません。

竜1銭カバーを聞いてきた人には、ローランがらみの話はしていません。ただ、絶対に安くないし、コレクションに使う場合は、理由が明瞭に「書けないとダメ」という理由で止めたのです。このカバー、真正か偽かどちらでしょうか。「ムッシュー」の根拠は、突き詰めれば、ローランは絶対に信用できる、彼が言うように、初な出現のロットに有った1通だから、誰も手を加えてないので「真正」に違いないということでしょう。真偽の検証の必要性を認めておられないと読みました。でも、客観的に評価する場合、その感情は排除せねばなりません。マテリアルとしての要素の不足はやむを得ないのです。その条件で、真偽の判断も出来るかも知れません。写真で見たところ、強靭紙の可能性も有ると思います。それならば、まずOK、それ以上に、消印を弊社のXRFで見てみたいのです。切手上の元素・封筒部分のそれが完全に一致、他の竜1銭の角検青印と比較して、朱印のPDを調べれば、「推測」以上の結果が得られるかも知れません。もし日本の方が落したならば、是非声を掛けて頂きたいと思います。