2009年10月22日(木)

『伝説の男になれなかった』 

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10月18日(日)の東京下見会の会場では、3人から声が掛かり、19日(月)には別の3人から画像つきのメールが来ていました。昨日あたりでは、まだ進行中で取引が未完了、チョッカイが入る可能性が有ったのですが、どこからも、その後の連絡も無いので取引自体は恙無く確定したのでしょう。
物は「改色20銭リ」、18日深夜終了のE-bayに出品されて、話題になる値段で落札になりました。現時点では、出品者の素性も聞けておらず、落札者の本来のIDも判っておりません。画像でもステータスは良くわかり、当然ながら、ポーラス・9s・鹿児島ボタ=印の外枠に滲み有り・柱の6~7の秘符が有り、彫り手の特徴とも言える、「チ」よりもやや短めの桜の花芯の癖も、1991年1月27日に出現した1枚目とピッタリ一致しています。物の真偽自体は、最初に出た時から、現物を見せた誰もが、本物に違いない、ただもう一枚出て欲しいなと言っていた、おとぎ話が実現したのです。 私の場合は、時満ちるまで17年掛かりましたが、今年の7月14日に切手の博物館の、7月28日に日本郵趣連合の鑑定で「真正」の結果を貰ってます。今回の物も、当然ながら議論の余地無く「真正」の結論になるはずです。無責任な雀が、数ヶ月前から皆が知っていたお話と囀っていたやに聞きましたが、それはガセネタ、出現の流れとその後の私が得られた情報の雰囲気では、正にびっくり仰天のE-bayでの掘り出し話と見て良いでしょう。
日曜日の深夜の終了、午前中~が弊社の東京下見会、このタイミングで、山口充さんが遠からず「JPS田沢菊切手部会報」に載せる予定原稿をくれました。的確な表現ですし、事実を公に周知する文章としては完璧な出来栄えです。オークションの結果という公知の事実を活字にするのであって、影響を受ける人がいる可能性は有っても、公表すること自体は何らの問題もないと思います。下世話な話で、落札額をオープンにすることに抵抗を感じる人もいるやも知れませんが、隠しおおせるものでもないでしょう。2番札$50000の上で、$50100の落札です。
貰ったメールの中で、「負けました。伝説の男になれなかった。」というのが有って、彼が$50000の札を入れたのです。グロスの数字の5万ドル=450万円はそれなりに良い値段では有りますが、私の感覚では、メチャヤス!朝一に情報を貰った人との間でも、10万ドルは誰も絶対に入れないけど、5万なら微妙、それにコレクションにするのでなく、落とせば100%弊社に扱いを一任で売るつもりだったとのことでした。山口さんの記事で落ちた値段を知った時点で、5万で負けたな、は読めてました。本来ならば、ビッドの前に連絡が有ったら、相手をノーリスクにして、その上で落としきる数字を教えられたはずですがE-bay、ヤフーの場合は止むを得ないのです。誰もが自分しか見ていないことを期待してやってますから。
5万ドル≒500万がMaxは心理的にもよく判ります。最初の1枚を見つけた時の私の競って負けて降りるつもりの値段がピッタリこの数字でしたから。あの時は自分でビッドが出来るし、相手の顔も見えるという好条件、でも絶対的にas isであって、誰も保証はしてくれません。ただ、現物を手にして、ステータスを納得できれば勝負できる数字なのです。今度の2枚目は、耄碌した爺さんならば無理でしょうが、普通に情報を持っていて、冷静に事実を分析できる人ならば、真偽で迷う必要は無いマテリアルです。コンディションの怖さは有っても、表つらが良ければ後は何とでもなるのです。でも、1000万にはなり得ません。耳学問ですが、売れるであろう値段を1000万と読みますから。
手彫の珍品の御三家と対比して「リ」を分析しましょうか。政府印刷20銭縞は20数枚有る、「リ」の立ち位置は、秋田調⑩か、真っ赤なマ23号に匹敵するでしょう。20銭イは墨点なので、正規発売の「リ」の方が下になることはなく、数比べでも劣後しません。だから結論としては、玉六ヨ、しかもその内の白抜十字消とイーブンかなと思ってます。今度の物は、数箇所裂けの雰囲気も有るのですが、カナ「リ」が見えるのが素敵です。私自身は存在が2よりは1の方が価値があると思いますが、複数出て来て戸籍が付いた方が、日本切手完集を目指す人の需要が起きるので業界にとっては明るい話題と言えるでしょう。
さて、1枚目の居場所ですが、鑑定に通ったことを殆どしゃべってないからですが、皆さん露骨には聞いてこないけど、結構気にしてくれるのです。2枚目が出たから、真正と認められ、1枚目も大手を振って表に出せるので良かったねが、Aパターン、物の良し悪しは既に勝負が付いていることが前提で、2枚目が出てきて価値が落ちてご愁傷様が、Bパターン。ただこのカテゴリーはアマチュアに対するものなのです。こちらは遊びで切手を弄ってる訳では有りません。17年掛かったのは、時の流れが自分に向くのを待っていただけ、条件が充たされれば、動くのに躊躇はしないのです。2組織の後の鑑定書が届いたのが7月末のこと。2枚目が出現するまでに2ヶ月強の日が経ってます。必要条件が先にあって、十分条件を得るためになら、17年は平気で待てるのです。最後のピースが揃ったなら、プロは躊躇はいたしません。無為に2ヶ月を虚ろに浪費はしませんし、ディールには2日の時間も要りません。2分で決着を付けますから。
さて2枚目、どうなるのでしょう。何れは詳しい情報も入るでしょうが、弄って見たい気は大いに有るのです。「伝説の男」が誰にも知られずに誕生していたら、きっちりケリを付ける自信が有ったのですが、今はちょっと未確定な要素がクリアできてないのです。昨年の11月の郵趣に1ページの記事を書きました。書き飛ばしていたら2ページ強になったので前と後ろをカットしたのです。プロローグは、「リ」の少し前に、スイスの不足税切手で、新発見が見つかって、デーヴィド・フェルドマンのオークションで2~3億円で売れた話、それに比べて日本切手は一桁安いかなという切り口です。プロローグは有名な逸話だし、古屋厚一さんの世界珍品切手物語=英領ギアナ1C(世界で最も高価な切手)の詳しく書かれているエピソードです。所持していた当時に、アーサー・ハインドが2枚目を手に入れて、金を払った後で、葉巻で燃やして「これで英領ギアナ1セント切手は1枚しかない」と言ったのです。だから、私の「リ」の記事の本来の末尾は「もし2枚目が現れたなら、それを破って捨てるかも・・」だったのです。残念ながら、この伝説を作りうるワンチャンスも既に消え去ってしまったのです。