無くなった。

世の流れなのでしょうか、ビジネスに於いて当たり前だった物が何時の間にか消えてしまっているのです。勿論、予告はされていたのでしょうが、そのままスル―していて、実際に事が起きてから対応策に慌てることが有るのです。

落札代金の支払いに、時々海外から貰っていた【トラベラーズチェック】はもはや過去の遺物です。日本での販売は2014年3月31日に終了しています。昔は海外への仕入れに円建ての物を持って行き、ヨーロッパの中央駅のCHANGEで外貨に両替して使っていたのです。最近の海外の仕入れはオークションオンリーなのでT/Cとはいつしか縁が切れていました。今では、貰った場合でも、銀行や郵便局では現金化が出来ません。効力自体は永久なので、町の両替商を使うなどで現金化は出来るのですが、ちょっとややこしくなっています。海外送金に使っていた、送金小切手=Demand Draftもなくなりました。今では送金は完全に電子化されていて、SWIFTやBICS,IBANが要るのです。マネロン対策も有るのでしょうが、ここに来て対応が矢鱈と厳しくなって来ています。郵貯ダイレクトは、法人は拒否ですし、取引銀行でさえ、1年に1回は仕向け(支払いの送金)、被仕向送金(受け取り)の予定を、ヒアリング・シートでの提出を要求して来ます。全ての金融機関でそうなっています。これは金融庁の指導であり、監査の時のアリバイ証明なのですが、ちょっとしたストレスになるのです。飛び込みでの送金というのはハードルが高くなっています。それ以上に、国内取引でもペーパーの手形・小切手が遠からず消えるのです。2026年頃という話です。ほんの少し前の大きい商売で、銀行振出の自己宛小切手を使ったのですが、窓口で大分不思議がられました。既に滅多にないケースみたいです。

私の場合は、イギリスポンドとアメリカドルの口座を現地で開いて、小切手での受け払いが出来ていたのです。ドルは1995年にWells Fargo銀行で開いたのですが、当初も随分苦労したのです。アメリカの社会保険番号がないのですが、非居住者が小切手を切る為の当座口座の開設を目指したのです。交渉して、然るべき証明が有ればやれることになったのですが、予想外に大変でした。この証明はアメリカ領事館でやってくれるはずだったのですが、折悪しく阪神・淡路大震災の直後でした。領事館へ出向いたのですが、アメリカ人以外には対応できない、日本人なら日本の法的手続きを取りなさい、でケリです。そのやり方も有るのです。単なるペーパーの書類では受けてくれません。国際的にも通用する、Nortary Publicというシステムです。公証人役場に行って、公証人に私が私で有る事の証明を貰い、その上で、公証人が正規の公証人である証明を外務省にやって貰うのです。外務省の支部が大阪府庁に有るので何とか出来たのです。当座の口座なので、貰ったドルのチェックは郵送でアメリカの銀行に送ります。そこに貯めて、支払いにドルの小切手を切るのです。随分と重宝できていたし、為替手数料も助かっていたのです。でも、突然にレターがやって来たのです。非居住者のアカウントの保持が許されなくなったのです。一月位の猶予は有ったのですが、相手はアメリカの銀行です。黙っていれば、口座残金の没収も有り得ます。幸か不幸か数万ドルの残が有ったのです。切られた期日までに必死になって支払える相手を探しました。取引頻度の高いオークショニアとエージェントにデポジットとして預けたのです。今後の海外取引の手段を何とか考えねばなりません。選択肢は限られているのです。

郵便の話に入ります。郵趣の5月号で報道されたのですが、イギリス切手で過去から流通している物の内、普通切手とクリスマス切手の大部分の物が2023年1月31を以て無効になるのです。記念切手は現状ではセーフです。外形上で簡単に区別が可能なのですが、普通切手とクリスマス切手では、デジタルコード(切手の右側に印刷されるQRコード)付きで無いと使えません。偽造防止は目的との事です。旧切手は期限を定めて有効な物に交換できるのですが、それ以降は無効です。イギリスの通貨単位の変更と、ユーロ導入時のケースと同じです。かの国の郵趣のマーケットにとっては非常に大きいマイナスになるでしょう。同じ事が日本でも起きないとは限りません。日本郵便とすれば過去の負債をチャラに出来る絶好のチャンスなのですから。

日本でも、既にこれに近い事態が起きています。支払い手段での郵便切手の劣後化です。法体系とすれば、最上位に郵便法(国会での議決)、次いで郵便約款(総務省での認可)、最後に郵便事務取扱規定(日本郵便が定める)のはずなのですが、この流れが蔑ろにされているように思えるのです。改めて郵便法28条を書いて置きましょう。(料金支払いの方法及び時期) 郵便に関する料金は、この法律若しくはこの法律に基づく【総務省令又は郵便約款】に別段の定めがある場合を除いて、郵便切手で前払をしなければならない。②略。明治6年の郵便規則、16年の郵便条例、戦後の旧郵便法、大改正前までの新郵便法でも、同様の条文は有ったのですが、郵便事業者の役務の提供に対する支払い手段は、唯一【郵便切手】だったのです。確か昭和40年代の郵政省の若手官僚が時の事務次官の指示で研究会を立ち上げて、郵便法の逐条解釈をやったことが有るのです。その本の該当箇所にも、唯一の支払い手段が郵便切手だとする表現が有った気がするのです。極めて例外的に、大きい金額になるようなケースでは、現金による支払いも排除しないというニュアンスでした。

今の28条も精神は同じなのですが、【別段の定めがある場合】という言葉を拡大解釈しているのです。別納郵便等での、支払い手段からの郵便切手の排除の事です。民営化直前に、広告郵便と区分郵便での郵便切手の排除の動きが出た時に、議論に入ろうとしたのですが間に合いませんでした。民営化をきっかけにして、何でも【郵便約款に書いてあるでしょう】の返事になってしまいます。民間企業の論理に、郵便法の精神は対抗できないのです。争っても勝てないので無駄な事はやりません。ちょっと前の【東芝ゼロ円】の件で面白い情報に接しました。総務省郵便課と私の議論に関して、郵便課が法解釈を日本郵便に問うたのです。監督官庁が監督される民間企業に尋ねたのです。のけ反りましたよ。総務省郵便課はその程度の能力しか有りません。郵便約款の変更など、やりたい放題にやっても郵便課はストップを掛けないでしょう。東芝ゼロ円は、東京地検の結論が不起訴なので、案件としては終わっています。警視庁保安課も同じ轍は踏まないという返事でした。この件のきっかけになった、郵便切手模造取締法に関しては、最上質の資料を持っているので結論を纏めて報告したいのですが、その時間が取れません。現郵摸の制定時の趣意書から入らないといけないし、大本の起点にはサンフランシスコ平和条約やUPU条約が大いに絡んできているのです。大局論でなく、実務的な私と郵便課とのやり取りだけでも、オフレコ条件の物はカットしますが、オンレコで出すべき往復文書だけでも100頁近く有るのです。何度か書きかけているのですが、行きつ戻りつになってしまいます。何れ時間が出来れば、思い出話としてなら書けるかも知れません。