2011年5月17日(火)

『郵便切手資料 第三輯 みほん切手(昭和編)』 

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山本義之さんは、昭和天皇に踵を接して生を受け、陛下後崩御の数日後に後を追うが如く逝かれた、正に昭和時代そのもののを生き抜いた人です。郵趣の方の単行本は、「鰹釣50銭の不発行切手」、「昭和43年“最近の通常切手の目打”」、当編に続き、「みほん切手・明治・大正編」を出されています。何れも、オリジナリティーに溢れ、今引っ張り出して読んでも、データの訂正はあっても、本筋は脈々と生き続いています。郵趣人生の最末期の数年間に親しくお付き合い頂き、鰹釣目打糊ありシート=現在逓信博物館所蔵、戦前記念切手シート(冠10銭・とんぼ1.5銭・日清5銭の1種除く)コレクション、1次円単位以降のシート・目打形式コレクションの処分をお手伝いさせて頂きました。旧毛軍事の山東省使用の希少性、旧小判5厘、1銭茶、2銭紫の2次ボタの意味とか結構話が通じた人でした。いくつかのビジネス上の後悔や、思い出深いトピックスも有るのですが、それは私の気持ちの内に留めます。
今回の香港のオークションでのみほんのロットは、震災の見本、うなぎ、犬山、S20年代の小型シートなどは、脈絡の無い変なロットに紛れていましたが、本体はストックブック2冊収納の単片類でした。戦前記念の見本・みほんは、明治銀婚・日清の見本は、布告剥がしが幾らでもあり、大正大礼と立太子礼は、戦後朝鮮から戻ってきた黒表紙本に菊・大白・旧毛・ステーショナリーと一緒に貼ってあった物がかなりの数マーケットに残っています。そして、赤十字会議~関東神宮鎮座も、木版の逓信省の贈呈帖に貼られていたものがそれなりに見受けられます。制定シートの次から・・増えるというのは、去年天野さんが記事を書かれた、西邨知一さんのアイデア=制定・年賀切手・議事堂記葉の発案者、昭和切手の図案考案にも携わった、逓信省の高官で逓博館長・・が影響しているのかも知れません。もっと整理すれば、戦前記念では、前と後ろを除いた、平和~制定の「みほん」は非常に少なく、私でも1回扱ったどうかの希少性です。それが、今回のロットには殆どがコンディションも良好で入っていました。これだけでも、ビッドの数字は結構上がるのですが、それ以外にそそられたのが、1次昭和~新昭和のそれが100枚近く、見事に揃っていました。
この内容なら、商売としての数字の踏みがメインです。今までに売った値段や、これから売れるであろう数字は簡単に出ます。@幾らで計算して、200万+ぐらいの小売値になりました。でも、数点のマテリアルに思わず目を奪われました。値段がどうこうでなく、手に入れて、確認したい欲求が膨れ上がってしまったのです。山本さんのみほん切手(昭和編)に確か書いてあったはず、でもそれは誰も追いかけず、研究も検証も進んでないであろうテーマを解明できる可能性のあるキーになるマテリアル。他の人が手にすれば、闇に埋もれてしまうマイナーな要素です。だから、ビッドでは飛び込んだ数字で入れています。負けない確信は有りましたし。
物は、2次昭和のペアが3点と灰勅の田型、ルーぺで見れば、明瞭な字体違いでした。みほんの場合、一般的にはマルティプルだからといって高くはなりません。でも2昭で字体が違っていれば話は違います。分析して、理屈か立てば、今まで闇に押し込められていたマテリアルも生き返る・・。だから、このロットが届いて、真っ先に本を熟読したのです。
山本さんは、昭和時代の逓信省の活版の「みほん」の字体を「み」で3、「ほ」で3、「ん」で2の分類、それぞれの組み合わせが有るとして、3x3x2=18、プラス派生1の19に分類されています。研究手法としては、十分に立派なのですが,ここでは1次昭和~3次昭和に限定して論じたいのです。この括りなら、「み」の1種は存在せず、「ほ」の1種は、後述しますが排除でき、3文字共に、2種のタイプに分かれます。組み合わせ数としては、2x2x2=8種で、実際にその全てが存在しているのです。
山本さんの文献の記述と記号をそのまま引用します。「み」は(A)は無く、(B)と(C)は横棒の長さを区別します。(B)>(C)です。「ほ」も(D)も外して、(E)と(F)の横棒の湾曲で見ます。(E)は真ん中が下に丸い谷型、(F)は真ん中が上に丸い山型、また1画と2画が繋がっている物が多いのです。「ん」は(G)が最後の跳ねが上向き、(H)はそれが横に平行です。それぞれ簡単に区別可能です。別窓に載せましたが、タイプ9~12、15~18の8タイプに分類できます。
1次昭和は簡単です。発行日を時系列に並べれば、1939年9月21日の10円以前は全てタイプ18、1939年10月16日の7銭以降は全てタイプ9です。切手帳も旧表紙1937.10.16はタイプ18、新表紙1941.2はタイプ9です。これらのデータは、日専、児玉氏「乃木2銭」にも正しく記載されています。ここで分かることは、恐らくは活版の「みほん」は100面で組まれ、1939年秋の発行切手の前と後で全面的に組みかえられたという事実です。それを否定する要素は見つかっていません。収集ポイントは、1種1枚、できれば銘版・・プラス別枠でゴム印手押しが是非必要・・。これにはスタディーは要りません。鷹になって獲物を狙えば成就できる位の餌はあるでしょう。でも、2昭~3昭では様相ががらりと変わるのです。チャートを見てください。