2005年10月7日(金)

「原版は平台?ゲーベル?」
昨日の記事に関して早速電話を貰いました。有益な資料の開示と共に一部訂正いたします。逓博での2回の展示の内、後のもの「世紀をこえた秘宝展」は2001年の国際展の直前に、テイパークにて「サマーペックス」の特別展示としてなされています。この催しの詳細は郵趣2001年7月号にカラー4ページで展示物の目玉が紹介されました。今回の記事に関連するマテリアルのみを3点、引用させて頂きます。
これではっきり判ることは、1次昭和19種完・2次昭和の内の10種が「原版刷」の無目打・白紙に小型シートの如く印刷されていた事実です。糊に関しては更なる情報は有りません。2次昭和が途中で途切れていることや、それ以前の普通切手・記念切手等の展示物から判断して、印刷の大元になる原版(平台なら25面x4・ゲーベルなら10面x10=100面の実用版の元になったもの)を用いて、最終仕上げで実用に供する直前の段階での1枚の用紙に平刷りしたものを、昭和19年の年初ぐらいまでは然るべき場所に保管していたのでしょう。児玉氏の話によれば、内閣印刷局は戦災で全焼し、恐らくは資料も燃えたらしく、逓信省かどこかに保管されていたものが、今は逓博の4階(地下でなく)の保管室に厳重に収納されているらしいのです。実用に供された印刷形式が、凹版・凸版・平版(平台とゲーベル)・グラビアを問わず、実際に用いられた「原版」の1枚刷りで本当の色鮮やかな最初期印刷なのでしょう。
問題は1次昭和などの、実用において、平台とゲーベルを併用した場合ですが、みほん切手の製造思想から判断すれば、逓博保管の「原版刷」は最初の版式の原版のみで刷り、両方の版式原版では作ってないと考えていいでしょう。1枚刷りなので、シリンダーの輪転機にセットしたから「ゲーベル」という分類をしているのでなく、窓口シートとしては、ゲーベル機で印刷されて全型目打で穿孔された100面シートの元になった原版を用いたものを「ゲーベル」と表現しているのです。ここらは解説の必要もない基本のルールです。まさか誤解される人はいないでしょう。
ここで面白い要素が出てきます。同一額面で平台・ゲーベルが存在する物の場合、我々は一般的には縦寸法の長さで判断します。印刷時にドラムに巻きつけ印刷なので、結果としてゲーベルの方が0.3~0.5ミリ程度長いのです。この差はかなり顕著ですし、時期の違いや刷り色等の要素もあって分類は然程困難では有りません。実務上は、特に銘10やシートでしかする意味がないし、これは目打違いで100%判ります。但し、「プラハの乃木」は事情が違います。原版刷は正規の機械に掛けてない1枚刷りなので、原版段階では、平台よりゲーベルが幾ばくか長いとは言い切れません。
別項目で書きましたが、慎重に現物からサイズを計測した結果、
5厘・1銭・14銭が 18・2x22・3センチ、 2銭・4銭が18・1x21・8センチでした。日専のデータを引用すれば、
ゲーベル 5厘・1銭 18・5x22・7センチ、 2銭・4銭 18・2x22・3センチ
平台     〃  18・5x22・5センチ、    〃   18・2x21・8~21・9センチ
になっています。2銭・4銭は出現日はゲーベルが先なので、当然の如く「プラハ・・」はゲーベル原版使用の1枚刷だと思ってました。でも、これだけの長さの差が出て、児玉氏の表現で言うならば、「平台の最初期」の特徴が出ていることと、プラハ展の開催がS13年6月26日~7月4日で、2銭の平台の出現期がS13年2月、4銭がS12年11月なので、「プラハの乃木」を作ったのが開催の数ヶ月前だとしても、平台原版で刷ったとしても矛盾はしないのです。最初の原版でなく、手元に有る物でも刷ったと考える方が自然です。
他の3額面を検証します。「たんぶるぽすと」の山崎好是氏の記事では、私の情報の引用として、5厘・1銭・14銭はゲーベルと断じてますが、その根拠は見出せません。14銭の場合は、実用版式がゲーベルしかないので、ゲーベル原版で良いでしょう。ただ、14銭の銘10を10点程は測りましたが、概ね18・3x22・8センチでした。推測ですが、原版1枚刷と100面実用版でのゲーベル機での印刷された切手では0・5ミリ程縦寸法に差が出るのかも知れません。この縦寸の伸びの理由に言及するのは事態を複雑にするだけなので今は避けておきます。これは推測以上に的確に検証する術はないのです。
ならば、5厘・1銭の原版は平台なのかゲーベルなのかどちらなのでしょうか。14銭を基準に考えれば原版より発売切手が0.5ミリ程伸びるのでゲーベルかも?ではここで出現期に注目したいのです。両額面とも発売当初は平台です。5厘のゲーベルの出現はS14年5月、1銭のそれはS15年3月です。1年以上プラハよりも後なのです。仕上げた原版を1年以上も放置は出来ないでしょうから、この要素を重視すれば5厘・1銭は平台原版になるでしょう。
2銭は「乃木に魅入られた人」に納まり、5厘・4銭・14銭は「昭和に魅入られた人」の手元に有って、夏の台湾展のフレームの中で目にされた方もいるでしょう。折あれば改めて、この4額面が平台かゲーベルかを論議したいと思います。そして、只今フリーの最後の1点、「1次昭和1銭」は平台なのかゲーベルなのか、そのサイズの意味は、出現期の矛盾もクリアして、いずれの版式の原版刷かの証明を、説得力を持って出来るのは、現物を入手できる方お一人だけの権利で義務なのです。そしてそのチャンスはどなたにも有るのです。11月の弊社セール、第42回フロアセールのラストロットとして、売りに出しますから。
次回は目打を検証します。切手の周囲4辺を一度に打ち抜く「全型」ですが、並べると面白い要素が見えて来ています。

郵趣2001年7月号(2.60MB)